水中素体牧場

 このネタは恒星間航行支援期の帝國にかかわるもので本来なら「ケンタウリ」本編の一部か同関連資料とすべき内容です。
一部に閲覧制限を考慮すべき点があるためOPTIONPARTS-MAIN収録としております。

海上プラットフォーム計画の行き詰まり

 帝國本国の弱点それは陸地面積の少なさだ。
工業原料は宇宙から収集出来ても生活空間は人工的に増やせない。
優良な素体を惑星の自然環境から切り離された状態で生産することは難しい。
だから宇宙で集めた鉄をどんどん降ろして建てた高層ビルにシビリアンを住まわせるわけに行かないのだ。
本国の自然環境を保つにはシビリアン人口の定数を守り、人口密度を制限するしかない。
だがそれでは本国が供出する素体数が限られてしまう。
恒星間航行体制を支えるには資材調達に当たるサイボーグの生産が間に合わない。
惑星の自然環境と接点を保ち、なおかつ人口密度上昇をまねかない生活空間がないわけでもない。
そう、帝國は陸地面積より遥かに広大な海水面を領有する。
そこが使えればよいのだ。
最初に試みられたのは海上プラットフォームによる耕地と居住空間の増加であった。
だが残念ながらたいした成果は得られなかった。
巨大な海上プラットフォームの設置された海面は海中に日差しが入らなくなる。
その代わりプラットフォーム上の人工田で栽培されるハイパーコシヒカリは確かに住民を養ってあまりある収量があった。
だがその炭酸同化能力は海草や海水中の藻類による炭酸同化を下回った。
つまり海上プラットフォームをむやみに増設すれば海水中の酸素濃度が低下して海が荒廃してしまうのだ。
結局海上プラットフォームによるシビリアン定数の増加はわずか3000人をもって断念することになってしまった。
それでも帝國には素体が必要だ。
そこで新たな計画が立てられた。
シビリアンの海中居住計画である。

水中呼吸の問題

海中といっても海底ドームでは自然との接触が断たれるから素体育成上宜しくない。
それにもしもドームへの酸素供給が絶たれたら大惨事になる。
したがって海中に居住するシビリアンは水中呼吸が可能なよう改造する必要がある。
従来の帝國技術では全身機械化によって真空中での行動を実現しており、当然全身サイボーグなら水中行動も可能だ。
しかしながら宙軍式全身サイボーグであっても真空中での呼吸は生命維持原液中に浮遊するマイクロカプセルに封じ込められた備蓄気体酸素に依存している。
それに加えて宇宙空間でなら脚のプルトニウム電池から供給される豊富な電力を利用して水の電気分解により気体酸素を得ることも出来る。
だが両手段を目一杯用いても真空中での行動可能時間は余り長くなく恒久的とは言い難い。
ましてプルトニウム電池の搭載が禁じられた地球上の水中行動は苦手だ。
そもそも今回の目的は素体生産者たるシビリアンの居住域拡大であるから全身機械化は出来ない。
それだけでなく生殖器の残置を前提とするから胴部臓器の大規模な置換も不可能である。
せいぜい臓器の隙間を縫って数センチ大の機器を埋め込めるだけだ。
したがって全身サイボーグの呼吸システムを応用することは出来ない。
まず、水中呼吸を可能とするためには大気中より遥かに少ない酸素で十分なガス交換を実現するため膨大な面積を有するガス交換器官を人体に取り付けなければならない。
魚類が小さなえらで呼吸を賄えるのは脳が小さいからで、酸素消費の半分を脳が占める人間では足りない。
即ち遺伝子組み換えによって人間に移植可能なえらを製造しても役に立たない
浄水フィルタや人工腎臓に使用されている中空ファイバ系素材ならば本数と長さがあれば相当な交換面積が取れる。
但し人体でそれが実装出来る部位は限られている。
現実に可能なのは頭髪の置き換えぐらいだ。
試算によれば1.2m以上の長さをとれば空気呼吸に匹敵するガス交換が可能だという。
但し片端しか体内につながっていない頭髪では中空ファイバを2重にして還流を可能としなければならない。
またそこに血液を直接流すことは出血、塞栓および感染症のリスクが大きい。
採りうる方法は酸素と炭酸ガスの吸収量が高い中間液を還流させ体内で血液との二次ガス交換を行うことだ。
二次ガス交換に関しては中間液を肺に送って肺で液体呼吸、毛根部にガス交換機器を埋め込むなどいくつかの案が考案された。
それらのうちから非人実験により肺を利用する構造が動力を必要とせず最もリスクが低いと評価された。
頭髪呼吸の仕組み 頭髪呼吸の仕組み
肺は気道と切り離されて呼吸液で満たされる。
呼吸液は気管支部分に設けた分離弁によって肺の膨張収縮力から一方通行の流れを起こす。
呼気管および吸気管は頭蓋骨を除去して埋設された人工頭蓋骨を兼ねる二層構造の人工毛根ベース上下層に接続されている。
二重中空ファイバ製の長い人工毛髪は内管が吸気流、外管が呼気流となっている。
内管はウィルスブロック特性を有し、頭髪呼吸者は呼吸器系の感染症を生じない。
人工毛髪の毛根部は尖った微細なプラグとなっており頭皮を突き抜けて人工毛根ベース表面の微細レセプタクルに咬合する。
呼吸液の補充とエア抜きは頭を上にした状態で頭頂部のレセプタクルに呼気管と吸気管が分離した整備用人工毛髪を差し込んで行う。
呼吸に十分な量の人工毛髪を設置するため通常は本来の頭髪を全面永久脱毛する。
但し、体格に対し相対的に長い人工毛髪を使用するか、元々髪が薄い場合は一部ないし全部の脱毛を要しない場合もある。
素体が永久脱毛を強く拒む場合には慎重に代謝量を測定した上で必要な植毛サイズを提示しリスクと生活上の制約を十分理解させた上で適用しなければならない。
気道が肺に接続されないため発声は不可能となり、代替手段として小型送信機を声帯神経に接続して埋め込む必要がある。
また、水中居住では外耳の障害が発生しやすいためあわせて耳口を閉塞し対向受信機を埋め込むことになる。

水中居住者養成所

非人実験の成功後はまず潜水作業機会が多い地軍海中迎撃施設隊において少数の志願者を募り頭髪呼吸化手術を実施した。
試用の結果、潜水作業においては連続潜水可能時間が無制限となる利点が大きく作業能率が大幅に向上した。
その代わり艦上作業においては、主に長大な頭髪が巻き込まれる事故に気を遣わなければならない点から作業能率の低下を来した。
特に本来の頭髪を永久脱毛せず人工毛髪を1.6〜1.8メートル程度に長くして呼吸面積の確保を行った者では軍務だけでなく日常生活にも不便が生じた。
ことに男子においては外観面も含めて不評であった。
頭髪呼吸化改造を受けた者は海中迎撃施設隊以外へ転任した場合に出来る職務が限定され困ることが多いというのが結論であった。
ただし、発声および聴覚の無線接続化は軍務に関する限り特に支障無しと判定された。
さらに、環礁内で水中キャンプを設置して行った恒久生活実験ではさまざまな問題点が見出された。
最も不評であったのは水中に永住した場合洗濯がまともに出来ず不衛生になるということだった。
実験参加者には陰部に皮膚病を起こして脱落した者が出た。
この問題は全裸で水中生活を営めば一応解決可能であった。
しかしここでもまた外性器が突出した男子では思いがけない怪我をしやすいなど問題が多かった。
また女子においても陰毛に小エビが卵を産み付けてしまうといったトラブルが発生した。
幸いなことに成分の違いからか呼吸用人工毛髪に卵を産み付けられる事故はなかった。
住居への小魚侵入は目の細かい網で囲えば防止出来るが、あまり目が細かいと住居内の海水において酸素濃度が低下するおそれがある。
したがって小エビのようなプランクトン類の侵入は防止出来ない。
このような結果から陰部をパイパンとした女子に限っては恒久的水中生活が支障なく行えると結論された。
素体生産者たるシビリアンとしては本来なら男女混合での生活が望ましい。
とはいえ常時全裸で混合生活を行えば遺伝特性に配慮しない安易な性交が横行し出生率増加が必ずしも素体増加につながらない懸念もあった。
出生の維持に関しては地上で採取された精液を持ち込むか、特別に選んで頭髪呼吸化改造を施した男子を定期的に派遣するかを今後検討するものとされた。
素体性適合問題がない軽微な人体改造と考えられた頭髪呼吸化であったが、帝國素体生産性本部にとっては想定外の状況となった。
とはいえシビリアン生活圏の拡大は急務である。
まずは女子のみによる恒久水中居住が実施されることになった。
実施対象の半数は実験結果を直接活用出来る海中迎撃施設隊の志望者であった。
そのほか、漁民や潮力発電施設保守、海上プラットフォーム基台保守、海底鉱石採取など民間水中業務志望者を含めた。
年齢範囲は下限を宙軍徴兵検査不合格が確定する15歳、上限を2浪までの博士課程修了者に配慮した29歳とした。
一般市民定住のさきがけという位置づけから一部関係者には下限年齢を設けない方がよいとの意見もあった。
しかしながら頭髪呼吸化改造を施した者を徴兵すると素体訓練に支障があるため現状では制限すべきとの結論となった。
また徴兵検査の例にならいGID性向が高い男子に関し性転換を条件として対象に含めた。
但し、徴兵ほどのプライオリティは無いため厳格な素体訓練を前提とする緩和基準は適用しない。
また徴兵不合格者のために生殖バンク施設のコストをかけることはできないので、生殖については所望なら自己解決で精液保存を行うものとした。
書類選考で一定の基準を満たした水中生活志望者は養成所に集められる。
養成所の施設は環礁内岸に置かれた陸上施設と環礁内の実験キャンプを転用した水中施設があって隣接している。
初めに陸上施設で不適格者を除くための最終審査を兼ねた初期訓練に入る。
帝國の教育水準においては徴兵不合格者といえども書類選考で一般的能力なら十分な者を選別できた。
したがって初期訓練にて確認されるべきことはただ2点である。
第一は最短でも1.2メートルとなる長髪を痛めないような注意力ないし生活習慣を保ちうる性格かである。
これが守れなければ呼吸液漏洩による窒息事故の危険性が高いから他の条件が良くても失格である。
初期訓練に備えて入所者はなるべく髪を伸ばしておくことが命じられ、間に合わない者には特殊なエクステが装着されて1.4メートルに調整される。
この状態で陸上訓練と軽易な海中作業訓練を2ヶ月実施したのち厳重な頭髪検査が行われる。
そこで頭髪の損傷率が一定割合を超え、6ヶ月のメンテナンス周期で安全を保てないと判定されたら失格である。
第二は全裸での生活に全く支障がない性格かである。
これは単に本人の精神衛生面を問われるのではない。
全裸でさまざまな作業を行っていても怪我をしない注意力や慎重さも問われる。
また本人にとっては支障が無くとも、おかしな趣味に走り他の訓練生を惑わす傾向がないかも厳しくチェックされる。
また初期訓練期間内に頭髪以外の体毛は全て永久脱毛される。
これは水中訓練のためだけでなく、パイパン化によっておかしな性癖が出現する者をあらかじめ除くためでもある。
初期訓練を無事に終了した者は頭髪呼吸化改造手術を施される。
手術は開頭と開胸を伴うため約一ヶ月は海に入ることができない。
その代わり約1週間目から陸上の滅菌プールにて水中生活訓練を開始する。

水面下の暮らし

紺:「潜水1時間を超えたわ。だんだん水中人になった実感がわいてくるわね。」

碧:「何言ってんだか。まだ水中で初の食事もしていないじゃないの。」

紺:「そういえばそれも楽しみね。私、刺身党だし。」

碧:「そんなこと言ったってここじゃ手づかみで新鮮なやつを捕れるわけじゃないわ。
お上の予算じゃいいとこ遠洋冷凍物でしょうよ。もしかしたら特殊加工糧秣でお終いじゃないの?。」

紺:「はは。せめて冷凍を期待したいわね。」

碧:「いくら刺身好きでも一生刺身か海草しかないとなったら飽きるわよ。」

紺:「たまにさざえ焼きとかできるよう居住地にも上がって火を焚ける岩場ぐらい欲しいわね。」

碧:「そんな都合の良い場所に当たるかなぁ。外海側だとすぐに深くなっているでしょ。」

紺:「たしかに発電所関係なら環礁内が便利だけど仕事によっては外じゃないと不便ね。」

碧:「環礁を越えて仕事に通っても良いかもね。ついででたまに陸で食っても良いわよ。」

紺:「でも服が面倒ね。陸の建物や乗り物はまだ髪引っかけない配慮がされていないし。」

碧:「前張りとニプレスだけ用意すれば?。でも髪引っかけるのはちょっと怖いわね。」

紺:「やっぱり閘門通って水中スクーターで通う方が安全かなぁ。」

碧:「それも遠回りだから外海通勤者用に専用シャトルくらいやって欲しいわ。」

紺:「人数が多くなれば宮殿みたいな地下鉄は無理でも路面電車くらい引いてくれないかな。」

碧:「それには5年くらいかかるかもね。あ、昼飯が降りてきたわよ。」

紺:「がっかり、やっぱ特殊加工糧秣だわ。水中生活に慣れるまではこれだけか。」

碧:「不味い。専用線引くならビュッフェでも設置してくれないと保ちそうにないわね。」

頭髪呼吸化改造娘・紺

あとがき

最初は帝國政府素体生産性白書・帝國式アクアノート開発企画書のつもりだったのですが、結局パイパンを描くこと自体が目的化してしまった気もします。
帝國法においてサイボーグとして扱われるのは宙軍仕様の全身機械化だけで、達磨や頭髪呼吸化は改造娘であってもサイボーグと呼ばれていません。
しかしながら自らは素体不合格である一般シビリアンも次世代素体の生産者として国の礎になっているのです。
このネタは”ケンタウリ”ストーリーの一背景をなし、今後本編で「海中居住化シビリアン」なども登場することが想定されています。
このページは閲覧制限付きなので本編からリンクを張ることはありませんが、先にここを見た方が「ああ、あいつらか」と紺碧娘のことも思い出してやっていただければ幸いです。

なお水中用頭髪呼吸型サイボーグはスペースコブラに登場していますので新しいアイデアではありません。
但し寺沢武一氏が詳細な構造まで検討したかどうかは知るよしもありません。

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