「日触」

皇紀1XX年、帝國本国では半世紀ぶりの皆既日触が観測される。
火星軌道の大工場衛星や矮惑星帯の資源収集拠点を運営する帝國宙軍にとっては、たかが天体の影に入ることなど珍しくもない。
それでも本国の産業には大いに影響がある。
本国はエネルギーの相当部分を太陽熱に依存しているからだ。
帝國の資源事情は隕石から収集される物質の組成に依存するため、極度の鉄余りである。
このため太陽エネルギーの利用は半導体製造が必要な太陽電池よりも巨大ミラーによる熱利用が主体だ。
鉄が安いから大きな反射鏡と支柱を作るのが一番楽なのだ。
反射光を耐圧水槽に集光する反射炉式太陽熱ボイラーが、いたるところに設置されている。
発電するなら当然太陽電池より効率が悪いが、過熱水配管で機械を直接駆動するならかえってロスが少ない。
そもそも小島嶼国である本国は塩害がきついため送電線の維持費が高い。
蒸気配管も塩害は受けるのだが、銅製品である送電線より安い鉄製品が使える点で有利だ。
このため帝都の電力ですら三割は集光所から送られた過熱水を受けて市内で蒸気発電している。
宇宙から降ろされた素材を用いる金属加工業では炉に直接集光して加熱する反射炉が使われる。
そして日蝕はエネルギー消費が多い真っ昼間に急激な炉心温度低下をもたらしてしまう。
だから帝國では日蝕当日は臨時の祭日とされている。
この日、電力の使用は特に厳しく制限される。
停電によって宙軍のサイボーグ管理ネットワークシステムが停止することを避けるための措置だ。
万一本国の指揮系統が混乱すれば、依然敵対的な北米連がこの機に乗じて破壊工作を仕掛けてくる怖れもある。
大規模な工場はたいてい国家か貴族の支配下にあるから休業命令が行き届く。
問題は仕事が休みになったシビリアンたちの受け皿となる繁華街である。
風俗産業は宇宙資源利用や農水産業と並ぶ帝國の主要産業とされ、高度な営業の自由が認められている。
故に一日ネオン消灯の徹底は一大事である。
当日は帝都各所に近衛大隊を主力とする警備陣が配置され、不正な電力使用は反逆罪として極刑に処せられる。
厳戒態勢の一方で休養期間に入っている宙軍兵たちは気楽なものだ。
この日限定のアルバイトに精を出す者もいる。
何しろ彼女らの体には太陽光に依存しない貴重な電源となる高出力燃料電池が搭載されているのだから。


宮殿前風俗街の臨時警備詰め所

あざみ:「あ〜あ、かったるいなぁ。
なんでメテオアタックシステムの名手といわれた古参兵の私がこんな地味な任務させられるんだか。」

リエ:「ほらほら、ぼけ〜っとしてると北米連のスパイが裏のピンサロで電熱器使う鴨よ。」

あざみ:「あ、リエ少佐!貴女も警備ですか。ご苦労様です。」

リエ:「ザ〜ンネ〜ン、私はまだ休養期だからバイトよ。
まあ、今日だけはあんたみたいに打ち上げ待機の娘が動員されるのも仕方ないわね。」

あざみ:「はぁ。でも貴女が風俗バイトなんて珍しいですね。」

リエ:「何しろ電力使用禁止で照明が蝋燭しか使えないからSM店以外はみんな困っているでしょ。
冷房代わりの極低温氷は配給されたけど、自家発電機が殆ど無い帝都じゃ電気だけはどうしようもないからねぇ。
明るいショーパブとかじゃ蝋燭なんて酸欠になるくらい焚かないと足りないからね。
ところが工場の休業で労働者は暇だから繁華街には客が増える。
そこで全身イルミネーション搭載の私に出番が回ってくるというわけよ。今日一回限りのボロ儲けだね。」

あざみ:「SMといえば真理亜侯は大繁盛でしょうね。」

リエ:「真理亜様なら今日限りで別の商売やっているわよ。
地下鉄が運休だから高額な運賃を取って乗り合い奴隷車を走らせているわ。
公家って昔から儀式用の馬車を持っているでしょ。
刑部省から男の人権削除囚を借りて今日のために調教していたんだって。
公共交通維持ということで公益性が認められて人権削除囚の使用許可が取れるとはねぇ。
あまり良い使い道がない男の人権削除囚を使うなんて、さすが目の付け所が違うわ。」

あざみ:「みんな、良いなぁ〜。あれだけ特区境界警備が厳重ならスパイなんて来ないのに。
大戦前はそんな動きもあったけど全て捕まって人権削除刑に処せられたはずですよね。」

リエ:「直接入ってくるだけがスパイじゃないわ。
特区に巣くう工作員が正規に出入りできるシビリアンをたぶらかすこともあるからね。
余った宇宙資源を売るために特区の自由港は無くせないし。」


宮殿周回道路

真理亜:「発進!、屑ども、もっと力を出さんかっ!えい電気鞭10発だ。
くそっ、こんな速度では地下鉄の代わりにならないぞ。」

人権削除囚:「ぐっ、うっ・・・(悲鳴上げたらもっと叩かれる。地獄だ)。」

乗客:「御者さん、そんなに張り切らなくても。
私らみんな娯楽目的で乗って居るんですからね。
ほら、前の便に追いついてしまいますよ。」

真理亜:「あっ2号車、マサの奴めっ、ナニちんたら走ってるんだ。
こらっ、藻前ろくすっぽ鞭も使わずさぼっているな。
公共交通の使命をなんと心得るか!」

マサ:「そんなぁ、これでも精一杯鞭使っていますよ。
奴隷が力出ないのは先々週の調教で真理亜様が全部去勢しちゃったせいじゃないですか。」

真理亜:「調教中に股ずれが化膿して3頭が使い物にならなくなっただろ。
あの調子では借りられた頭数で到底今日一日保たない。
擦れて困るのなら余計な出っ張りをすっきり取り除くしかあるまい。
馬でやっていることはこいつらにも当然やるべきだろ。
他に良い方法でもあるというのか?。」

マサ:「リエに頼んで褌でも調達すれば良かったのに。」

真理亜:「藻前はバカだな。家畜に服着せるなんて何処の国の話だ?。
だいいち、垂れ流すときにどうするんだ?。
藻前はいちいち家畜の下の世話なんかしたいのか?
ましてこいつら人権削除囚は重罪を犯した家畜以下の存在だ。
馬の力が出せないのなら馬の十倍鞭を入れればよいのだ。
とにかくこれではダイヤが乱れっぱなしだ。
とりあえず交代しろ、私が2号車に気合いを入れてやる。
発進、それっ、びしっ、びしっ」

2号車の人権削除囚:「ぎぃやあぁぁ。」

マリア:「生意気に人間みたいな悲鳴を上げるなっ。鞭が足りないか。びしっ」

マサ:「こりゃ、また追いつかれたら大変だわ。今度は私が叩かれるかも。
さあ走ってくれよ。びしっ」

日蝕対策に奴隷車

あとがき
日蝕を口実にお馬鹿で残虐な話が書きたかっただけです。
だから、たかが日蝕による出力低下でこの騒ぎでは雨の日どうするんだとかいう突っ込みはナシです。
あえて言い訳するなら、南の島の気候はスコールの後にかんかん照りというパターンだから大丈夫かもってことで。

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