「六女幾ネ申(ろっきしん rokkishin)(1)」
零章:六女幾ネ申の世界
これは「オプションパーツ・ケンタウリ」から約1万年後、εエリダニに定住した帝國の子孫たちの話です。
εエリダニは太陽系から10.5光年、銀河中心に向かって右120度、赤道よりやや下の方角にある太陽に似た若い恒星です。
ここに帝國艦が進出したのは、常温核融合と衝突核融合の制御が確立して、種原爆に依存せず出力の自由度が大きい核融合推進が実現した時代でした。
恒星間航行艦の規模は初期と大差ないが、種原爆のためのプルトニウム生産炉を搭載しなくなったため実質的な機関重量が激減しました。
さらに小型の爆風受けを並べたクラスタ推進器により核パルス推進での急旋回が可能でした。
運動性の向上によって航行速度は光速の27%まで向上し、本国から40年で到達できたそうです。
また脳再生技術もテロメア復元によって脳表幹細胞の補充が無尽蔵になったため、同じ40年もサイボーグには短く感じられるようになっていました。
εエリダニ星系は惑星の形成が未成熟で、膨大な塵のディスクに囲まれていました。
可住惑星は見つからなかったものの、塵のリングは隕石移動装置の使用が可能な規模の、手頃な微小惑星の宝庫でした。
すぐには素体生産地として使えないが、時間をかけて人工的に質量集積を促進すればいずれ可住惑星が形成できたのです。
太陽系のように惑星の形成が完了した星系では、塵のリングが惑星の潮汐力で掃きちらされていて希薄です。
だからメインベルトで人工的に質量集積を促進しても地球規模の惑星は出来ません。
なにしろ穀星(矮惑星セレス)がメインベルト総質量の1/4を超えているほどで、全部集めても水星に及ばないのです。
もしも太陽系で新たに惑星が作りたかったら、太陽から球状に1光年も拡がったオールトの雲で材料を集めるしかないでしょう。
そんな遠くて広い空域から隕石をかき集めてくることは、現実的な時間内において不可能です。
ところがεエリダニでは、冥王星軌道ほどの距離に地球十個分以上の材料が残っていました。
これに目を付けた帝國は、ハビタブルゾーンのど真ん中で理想的な円軌道を描く位置に惑星形成を試みました。
しかも、互いにトロヤ点となる位置に6個の大質量を同時に集積させたのです。
手始めに移動可能な最大級の微小惑星を飛び散らないように速度差を調節して目標位置に集めていきました。
一箇所あたり一億トンほど集めてやると周囲の塵が引き寄せられて勝手に集まり惑星の種が成長し始めます。
星系内部の塵はディスクほど濃くはないが太陽系より遥かに多くの隕石が残っていました。
このまま放置してもいずれ惑星になるでしょうが百万年も待つわけには行きません。
そこで、帝國の娘たちは塵がくっつきやすいよう送り込む隕石の氷隕石比率を増やして湿り気を与えました。
ついでに将来惑星の自転が揃うように隕石を落とす向きと速度を加減してやりました。
種惑星の内部は圧力で高温化し金属分が溶けて中心に集まるようになってきました。
ここまで来れば周囲の塵は急速に集まり初めます。
しかし放置すると成長を阻害するような衝突もランダムに起きます。
そこで周囲空間の監視を厳重にし、惑星を砕いたり自転を狂わせる巨大隕石は軌道を微調整して緩降下させました。
ときには百年もかけて小隕石を繰り返し当て、少しずつ軌道を変えて緩やかな衝突となる軌道に追い込んでいきました。
数千年にわたる気長な塵積もらせ実験は成功し、ここに6個の地球型惑星が出現しました。
しかしやや材料が多すぎたため、苦心して均等に分けてもなおそれぞれが1.1Gと重力大きめになりました。
星系内部の微細な塵が想定より濃く、自然に集まる量が多すぎたようです。
多すぎた物を減らす方法はありません。
軌道付近の大隕石をほぼ落ち切らせなければ、いつか勝手に落ちてきて災害になるだけだから途中で止めることは出来なかったのです。
できたての惑星は暑い水蒸気が立ちこめる地獄の釜ゆでのような世界でした。
外縁から運んだ極低温氷隕石が効いて地表が適温適湿化するのに何百年もかかりました。
水分を入れすぎたのでちょっと陸地が目減りしてしまいましたが、どうにか大陸は確保できました。
それから投下した植物が繁茂するまでには数百年を要しました。
何も生物が居ないところだから、マメ科や穀類、果樹を優先的に繁茂させることができる都合の良い生態系になりました。
地盤を安定させ、将来の軽工業資材とするために竹藪も発生させました。
麦と大豆と筍があれば、ラーメンの生産が可能になります。
海に育ちそうな水面には海草や植物性プランクトンがばらまかれました。
水中酸素の増加を見計らって、小エビが放流されました。
小エビが増殖した頃合いを見て、マグロが放たれ、海の生態系に君臨し始めます。
以後も食用にならない動植物の放流は厳しく規制されていました。
この頃になると周囲の隕石も減って、大気を突き抜ける落下は年に一度くらいまで減ってきました。
大気に十分な酸素が溜まった頃合いを見て、ついに素体生産が開始されました。
まだ荒々しい環境なので素体生産都市には隕石シェルターが必須でしたが、平時は地上生活が可能でした。
化石燃料が存在しない世界ですが、制御性の良い常温核融合炉を家庭用ボイラーに使えるから暮らしは快適です。
地上の乗り物も、もっぱら常温核融合ボイラーを使った蒸気車が使われていました。
航空機も蒸気機関を使った核融合飛行船が主力でしたが、エタノール内燃機も一部で使われました。
打ち上げロケット燃料は液酸液水エンジンや天然ゴム系固体燃料ブースターで賄われています。
理想的な空き地を選んで住めるから素体生産は順調で、六惑星とも一万人を超えるシビリアン人口を擁するようになりました。
しかし、若すぎて無駄に元気な人口構成ゆえの悩みもありました。
向こう見ずな若者が多いから、厳しい統制をしなければ治安が保てなかったのです。
このため帝國本来の反宗教主義を少し曲げて、各惑星統治者の神格化をしなければいけなかったのです。
もしかしたら、人為的な惑星形成促進という神の真似事をやってしまった報いでしょうか。
先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口、六つの分皇家当主は、六女幾ネ申(ろっきしん)と呼ばれました。
六女幾ネ申とは、「神になりかけた女性型機械」といった意味のようです。
本国~金星間を除けば、複数の素体生産地が容易に往来できる範囲に集まった星系はありません。
しかも六つの分皇家は歴史の短さや勢力がほぼ対等です。
それで、εエリダニでは独特の植民統治体制が選ばれました。
重要な決め毎は、7/12年ごとに六女幾ネ申が集まるオフラインの集会「女幾ネ申会議」で決せられます。
ここの一年は、地球の312.5日に相当します。
εエリダニでは、近日点が2.4AUとハビタブルゾーンに接近するエキセントリックプラネットが、2500日の公転周期で巡っています。
惑星形成時には、この木星の1.5倍も重い大惑星に移動させたい隕石をスイングバイさせることで随分作業がはかどりました。
その代わり、6惑星の公転周期はこれに共鳴する整数比にしなければ軌道が安定しなかったのでした。
成長してしまった惑星の運動を人工的に調整することは不可能ですから、最初の種惑星生成においてこのことは考慮されていました。
幸いにも、εエリダニの光は太陽よりかなり弱かったので、近めの軌道も環境形成に手頃でした。
女幾ネ申会議の専用会議場は、六惑星を順繰りに掠める軌道に配置された準衛星「出雲」に設置されています。
出雲は、作業拠点として用いられていたいくつかの大隕石を惑星形成促進工事中期に合体させて形成されました。
その際に、将来6惑星を巡回して環境形成を監視する拠点とするため少し遅い共鳴軌道に配置されたのです。
まだ惑星への塵集積の途上でしたから、ここにも塵が集積されました。
出来上がった準衛星の大きさは、月より一回り大きいものになりました。
大隕石を合体させる際に接着剤として用いられた氷隕石の湿り気が効いたため、塵の集積が多かったようです。
この名残で、出雲には水蒸気を主成分とする薄い大気が残っています。
動力炉に補給する水を確保するためクレーターに落とされる氷隕石の影響もあって、大気の量はあまり変動していません。
現在の出雲は、女幾ネ申会議が開かれる大ネ申殿の周囲以外全て軍事基地や宇宙艦建造施設となっています。
建物が無いクレーターは氷隕石を落として貯水池としたり、金属隕石を落として資材置き場として使われています。
本国から20〜30年ごとに来航する交流艦隊の巨大宇宙艦は、出雲の周回軌道に停泊し、2年がかりで乗員貨物の積み卸しと船体整備を行います。
六女幾ネ申は皇族様ですから、もちろん帝國のサイボーグ管理ネットワークに属しています。
惑星間といっても、ここはたいした距離でないから、日常的な意見交換はオンラインで出来ます。
あえてオフラインの女幾ネ申会議を開く意味はやはり神格化にあったと思います。
女幾ネ申会議の開かれる時期は、出雲から最寄りとなったホスト惑星のカレンダーにはネ申有月、他の5惑星ではネ申無月と記されています。
εエリダニももちろん帝國植民地統治者参勤交代制度の対象になっています。
しかし六女幾ネ申のうち一人でも本国出身なら十分だろうとのことで、六回中五回は現地世襲が許されました。
だから女幾ネ申会議では常に現地よりの意見が優勢になり、他の素体生産地とはかなり異なる統治が行われました。
例えば、他の素体生産地では次の副皇帝となる副皇太子は本国から渡航した皇族の互選で決まります。
ここでは6惑星の副皇太子は現地世襲か渡航者かに関わらず女幾ネ申会議で選考していました。
重力が大きめで酸素含有率は低いため、6惑星のシビリアンは全般に耐G能力が高く、酸欠耐性も優れていました。
本国でならサイボーグ&貨物専用機と呼ばれる粗野なロケットで、生身のシビリアンを打ち上げることが可能でした。
だからこの星系では、シビリアンによる宇宙飛行が盛んです。
六惑星間の交通だけでなく、隕石坑夫へもシビリアンが進出していました。
このため本国では帝國宙軍が独占していた隕石採取事業が、民間業者に開放されていました。
この星系の隕石は恒星が若いため重い元素の含有が少なく、稀少な重元素を人海戦術で集める必要があったからです。
また、6惑星の植物が食料になるものばかりなため農作業が収穫しか無く、地上で労働力が余っていたことも影響したようです。
ずいぶん前置きが長くなってしまいました。
でわ、そんなわけで神になりかけの6陛下とその後継者たちを中心に気まぐれな話を進めたいと思います。
1章.第108次 女幾ネ申会議
先勝女幾ネ申:「女幾ネ申がたの皆様にはお変わりもなく、再びここに集えることお慶び申し上げます。
恒例により、出雲に最寄りとなった先勝星の副皇帝たる不肖先勝女幾ネ申が議長を務めさせていただきます。
早速ですが、優先事項順に議論を進めましょう。
第一案件は約1年後に来航する本国交流艦隊の復路に関わる要求事項について、何処まで応諾するかの検討です。
まず、艦の航行に必要な燃料、補修資材および消費財に関しては要る物が自明ですから全て認めるしかないでしょう。
問題は持ち帰り資源、ことに人的資源の要求でしょう。」

友引女幾ネ申:「30歳未満のサイボーグ300体は厳しいですね。
いくら6惑星に若年者が多いと言っても一般シビリアンについてのことです。
これに応じたら、該当年齢層の兵が星系から殆ど居なくなってしまいます。
サイボーグパーツの生産能力自体が年間40体で精一杯だからどうにもなりません。」

先負女幾ネ申:「交流艦は1200体分の新品パーツを積んでいるはずですよね。
要するに部品をくれるからもっと大勢改造しろということなのでしょう。
我々はパーツ生産量の制約があるから素体適性があっても下位の者を落としてきました。
このさい遡って追加合格にして穴埋めするしかないでしょう。
パーツの量で言えば差し引き900体分増えるのだから、半分保守品保存に回しても大幅黒字です。」

仏滅女幾ネ申:「そりゃあ帳尻は合うかも知れませんよ。
でも追加合格させたって素体訓練はこれからになってしまうから、すぐには穴埋めできません。
それに何歳までを追加合格にするんですか。
学生ならともかく、定職に就いている者を引きはがして徴兵するとなったら民間企業への影響が大きい。
やるとしても無職者以外は志願制にせざるを得ないでしょう。」

大安女幾ネ申:「落とした適性者の多くは隕石鉱夫になっていますね。
ある程度宇宙慣れした者なら、このさい素体訓練は省略しても良いのではありませんか?。
本国の要求条件は年齢だけで、質は問わないのだから新兵主体にすれば現役兵の目減りを避けられます。」

赤口女幾ネ申:「えっ、それは乱暴ですよ。
恒星間航行艦になりたてサイボーグばかり乗せたら、緊急時の対応が難しくなります。
参勤交代で同行しなければならない私の立場もお考えいただかないと。
それから、星系に残る隕石鉱夫が男ばかりになると不満が出ませんかねぇ。」

先勝女幾ネ申:「艦ごとに中核要員10名ほどだけ熟練兵を充てれば運行は困らないでしょう。
その60名の捻出だってきついのです。新兵ばかりで大変なのは艦隊も星系も一緒ですよ。
それに隕石鉱夫だって、適性者を野放しにしておくよりは男ばかりの方が御しやすいのではありませんか。」
友引女幾ネ申:「いずれにせよ有職者の強制徴兵は色々と摩擦の種になります。
まだ時間があるのだから段階的に進めましょう。」
先負女幾ネ申:「私も段階的実施が望ましいと思いますね。
まず、今年の新卒については適性者の全数を合格させるのです。
既卒者の追加については志願公募をかけてみて、反応が悪ければ洗脳工作をしましょう。
各皇居ネ申殿で市民参拝日を増やして、大繁華街のようにここには無い本国の魅力を吹き込めば、行きたい者は増えるでしょう。
力づくで民間から引きはがす決断は今すぐでなくても良いと思います。」
仏滅女幾ネ申:「ところで改造手術の人手は間に合うのでしょうか?。
いまの体制だと、新製は年間60体が限界のように思いますが。」
大安女幾ネ申:「いまの体制は、部品が足りないから成功率100%を確実にする贅沢な体制でしょう。
本国でやっているように、脳摘出以外の工程は民間医師を動員する体制に変えたらどうです?。
四肢離断なんて民間でも滅多に事故が起きない手術ですよ。
ことに改造準備の場合は、断端トランスポンダも入れない単なる機能全廃手術ですし。
BCIと脳摘出でも流れ作業にすれば、開頭までは下請けを使えるでしょう。」
赤口女幾ネ申:「若い娘ばかりの艦で長旅かぁ。とんだ冒険にならなければいいけど贅沢は言えませんね。
中核要員の質だけは宜しくお願いしますよ。
それから開頭に民間を入れるのはいかがなものか。
サイボーグと違って疲れてくると手元が狂うリスクが高いですよ。
艦隊が運んでくる全自動開頭機を使う方がまだ安全ではないのかな。」
先勝女幾ネ申:「全自動開頭機は使ってみないと何とも言えませんね。
民間の脳腫瘍患者でテストして信頼性を見るように準備手配してはいます。
その結果次第で使うかどうか判断するしかないでしょう。
ただそう頻繁に出るものではないから、着いてすぐ使う機会があるかどうか。
じゃあ、とりあえず各星ともなるべく志願が集まるよう宣伝に努めること。
それから民間医師の動員がすぐに出来るよう適正配置を進めること。
今年後半に脳腫瘍患者が出たら、出雲の特別手術施設に送らせること。
以上決定でよろしいですね。
では、次に重金属資源の供出についてです。
本国の希望は希望として、ご承知の通り星系では放射性物質なら豊富ですが金属全般は足りません。
ウランの要求は妥当としても、水銀は艦隊消費分しか出せないかなと思いますがそれでよろしいか。」
友引女幾ネ申:「こちらには石油資源がゼロですからねぇ。
とにかく油脂分が何もかも苦しいから死体まで回収しているわけです。
今回送ってくれた原油12万トンは随分奮発してくれたと言うべきでしょう。
地球にだって石油資源は僅かしか残っていないし、本国では産出しないから苦労しているはずです。
あまりけちって、次回から原油や石油製品で冷遇されても困りますよね。」
先負女幾ネ申:「次も艦隊を送ってくれないと困るという意味で、水銀10%は積み増したいですね。
石油と違って全く無いものでもないし、頑張ってダストを漁るしか仕方ないでしょう。」
仏滅女幾ネ申:「6惑星の地質学的歴史が一万年しかないという事実は変えられません。
今後に備えて振り子星の天然衛星をもっと探査すべきです。
電磁環境は太陽系の木星より遥かに厳しいが、シビリアン隕石鉱夫なら活動に支障はないでしょう。」
大安女幾ネ申:「体は大丈夫でも装備の故障リスクはあるのですよ。
いまでも隕石鉱夫の仕事は忙しいのに、素体に引き抜かれるんです。
そのうえ衛星開拓まで手を広げるのは無理でしょう。
衛星開拓となれば人数も大がかりになるから、事故があれば死者数もまとまった数になってしまう。」
赤口女幾ネ申:「3大天然衛星ならば大気圧も大きいから降下は落下傘でしょう。
使い捨てカプセルなら人数は分散できるし、落下傘が全部故障した例は聞かないですね。
夏の時期は温室効果もあって軽装備で有人活動が可能でしょう。
メタンと酸素の割合を除けば、夏なら可住衛星と言っても良いくらいです。
1気圧の窒素ーメタン大気は、呼吸さえ確保すればいいのだから真空中より遥かに安全です。
電子機器に頼らない、全手動装備での探査は一考の価値があると思います。
隕石鉱夫が多忙な一因は、ダストの有効物質含有が希薄なことです。
衛星上で採鉱すれば、成分が同程度でも量で稼ぐことが出来ます。
しかもあそこは火山活動があるから、まとまった鉱床も何処かには在るはずだ。」
先勝女幾ネ申:「天体環境だけならその通りでしょう。
ノイズが多い無人探査機のデータだけでも金属が集積した地形の目星は付いているし。
一番の問題はシビリアンの依頼心ではないでしょうか。
シビリアン隕石鉱夫のなり手があるのは、何かあったら女幾ネ申が助けてくれるという信仰心のようなものに依るのです。」
友引女幾ネ申:「統治安定上は依頼心を持たせるのが望ましいだけに、除くわけにも行きませんね。
大惑星の雷が引き起こす電磁障害を防ぐ方法って本当にないのでしょうか。
太陽系では外国が木星の衛星に手を出していますね。」
先負女幾ネ申:「たしかにサイボーグが降下した例もあるけど、シールドボックスから出ずに指揮しただけでしょう。
例外は末梢まで素体の生体神経を残して制御系を全部生体で構成したス連型だけではないですか。」
仏滅女幾ネ申:「ああ、その例では活動が出来ていますね。
但し、末梢神経のため全身に生命維持系の配管を巡らせるので、べらぼうなコストになったはずです。
素体の条件も機械の補助無しでサイボーグ体を制御できる運動神経が必要ですから、極めて適合者が少ないです。
しかも全身を末梢側から少しずつ解体するために、改造手術の苦痛が凄まじかったようです。
人口が何億もある超大国が十数体規模で維持したから、どうにか可能だったのでしょう。
量産は全く不可能だし、僅か6万の人口で適合素体が居る確率はほぼゼロでしょう。
それに帝國の制度下では適合者がそこまで鍛錬できる年齢に生身で残っている可能性は無いでしょう。
そんな希少な素体を使って、核パルス艦のGに耐えられないサイボーグを作るのは不経済すぎますね。」
大安女幾ネ申:「大国の少数例を経済活動として参考にするのは無理ですね。
それよりも、数を揃えやすい男の隕石鉱夫を生体のまま送り込む手段でも考えた方が有効でしょう。
真空や極低温は無理でも、大気成分が少し有害という程度なら表皮浸透保護と呼吸だけなんとかすれば良いのです。
表皮を平滑化して半年に一度コーティングするくらいは難しくないでしょう。」
赤口女幾ネ申:「表皮よりも開口部の処理は面倒ですよ。
まず鼻や口は塞いでしまうとどこから呼吸や栄養摂取をするかというのが問題になります。
現実解は鼻にチューブを通し、鼻の入り口をプラグが合うように整形することぐらいでしょうね。
鼻の穴は二つあるから片方を呼吸、もう一方を流動食の配管とする。
口は閉じた状態でコーティングしてしまえばたぶん安全でしょう。
飯場に帰ったときにでも開いて、手入れと運動をすれば問題ないかしら。
メタンや水素ぐらいなら毒ではないから目の保護はたぶん不要です。
角膜の酸欠は2〜3時間ごとにカップを当てて酸素を注入すればいい。
排泄の方は1気圧なら出る一方だからおそらくそのままでも大丈夫でしょう。
但し酸素が無いと汚物がいつまでも残ってしまうから処理施設はいるかな。
可燃ガス大気下だと酸素を使う施設は結構危ないかも。」
先勝女幾ネ申:「吐いた息にも酸素はかなり含むでしょう。
そのまま垂れ流していると引火の危険性はあるかも。
汚水処理施設や飯場の出入り口からの酸素漏洩も心配ですね。」
友引女幾ネ申:「木星型惑星の衛星では、常に窒素や二酸化炭素、ヘリウムが豊富です。
不燃性ガスを収集しておいてエアロック開閉時の酸素パージに使うのは難しくないでしょう。
呼気についてもボンベから不燃ガスを送って希釈すれば大丈夫では?。」
先負女幾ネ申:「どうやらボンベ2個背負いさえすれば、あとは軽装でもシビリアン鉱夫が活動できそうですね。
問題はむしろ、交流艦隊が滞在する2年の内に、十分な金属がとれる鉱床があるかじゃないですか。」
仏滅女幾ネ申:「三大衛星の火山活動は地球のような対流と衛星間の潮汐作用が混じったものでしょう。
少なくとも数億年は激しく続いているようだし、鉱床が無い方が不思議ですね。
地球と違って手つかずだから、楽な場所ばかり選んでも十分採れるのでは。」
大安女幾ネ申:「採るよりも、宇宙空間に上げる方が手間でしょう。
サイボーグが手伝わずに動かせる軌道輸送手段にあまり強力なものはないですよ。」
赤口女幾ネ申:「居住天体でないのだから、核カタパルトを使ってしまいましょう。
大気成分と冬の低温から考えて、3大衛星は将来もテラフォーミングなんて不可能でしょう。
つまり、鉱山や飯場から千キロも離れれば放射能を垂れ流しても良いんですよ。
収集した金属資源を100トンほどずつ砲弾型にまとめて、核融合弾の爆風で打ち上げれば安上がりです。
撃つタイミングを選べば、一気に振り子星を離脱するコースに乗せられるから、回収にはサイボーグが向かえます。」
先勝女幾ネ申:「打ち上げをシビリアン鉱夫だけで出来ますか?
一回撃ったあとは放射能が退くまで近寄れないですよね。
発射管制で電子機器をあてに出来ないならコースも雑になります。」
友引女幾ネ申:「核分裂を使う訳じゃないから、3日も経てば防護服で近寄れるでしょう。
核カタパルトを10門ほどまとめて設置すれば、月間一万トンは上げられるでしょう。
コース精度は点火用化学レーザーのばらつきがあるから、サイボーグがやっても、ゼンマイ時計でも五十歩百歩です。」
先負女幾ネ申:「毎月100個も惑星間空間で巨大砲弾をキャッチするとなるとサイボーグが足りないかも。」
仏滅女幾ネ申:「それは交流艦隊が着いて、部品が手に入ったらすぐ大量改造をすれば間に合うでしょう。
とりあえず今すべきことは、中途採用素体を募集して訓練に入ることです。
そして素体に使えない鉱夫は三大衛星に送り込むのです。
振り子星は来年が夏だし、そろそろ防寒装備をすれば鉱夫が降りられる晩春期になります。」
先勝女幾ネ申:「資源の件は方向性が固まったということで、よろしいですね。
でわ次に星系共通法である、刑法の改正についてです。
ご承知のように、星系ではインフラの整った地域がわずか6箇所の素体生産都市だけです。
本国のように人口の殆どが治安監視システムが有効な地域に住むわけではないから、犯罪率は低くない。
しかも外縁矮惑星開発を殆どしていないから人柱の需要が限られるし、大学も小規模で人体実験が少ない。
そのため人権削除刑が殆どただの終身禁固になってしまっている、という問題が起きています。
このため一般シビリアンから死刑および公開処刑導入の請願が数多く上がっている状況です。
何らかの酷刑導入はしなければならないが、帝国憲法との整合をどうしたものかと。」
大安女幾ネ申:「定説によれば、帝国憲法は残虐な刑罰を禁止していません。
死刑導入はもとより、磔刑や車裂きを公開で行うことだって可能でしょう。
もちろん死刑未満の肉刑だって許されるし、人権削除も全身を奪う肉刑の一種と解釈されています。
問題は、資源の無駄の禁止に抵触するのではないかということだけです。」
赤口女幾ネ申:「ならば、酷刑の見せしめによる犯罪抑止効果が、人権削除囚の利用価値を上回れば良いわけですね。」
先勝女幾ネ申:「ただ、犯罪抑止の効果を金額評価することが難しいのです。
星系では、本国のように外国工作員侵入や麻薬密輸といった大規模組織犯罪が起きえません。
これまでに立件された人権削除犯は、全て粗暴犯だけです。
殺人は被害者の親族にとっては重大でも、国家にとってたいした損害にならないのです。
せいぜい被害者が成人するまでにかかった生活費と教育費が無に帰するだけの被害額です。
人柱一体の終身生産力は、その20倍以上といわれています。
死刑の経済合理性が立証できないと違憲の疑いが出てしまいます。」
友引女幾ネ申:「公開処刑で入場料を取ったり、映像を販売して収益を出したらどうかしら。」
先負女幾ネ申:「治安のため死刑導入を求めている人数と処刑を見たい人数は別物です。
総人口6万しか居ない星系では僅かな収益にしかならないでしょう。」
仏滅女幾ネ申:「とりあえず死刑の前に、例の自動開頭機のテストに使ったらどうです。」
大安女幾ネ申:「あれは改造手術用なので苦痛が少なくなるように最適化されているはずです。
本国が採用を決めているのだから、正しく使いこなせればただの安全な医療器具に過ぎません。
開けてみるだけなら人権削除囚を使うべき不可逆的な人体実験でもありません。
必要なテストは多くて3回だから、50人も溜まっている人権削除囚を使い切れる話でもないです。
脳腫瘍患者がなかなか出なければ使っても良いけど、問題解決にはなりませんね。」
赤口女幾ネ申:「なかなか名案が浮かばないですね。
とりあえずただ飼っておくのはまずいから、人力だけでダムを造るとか、奴隷的苦役でも用意しますかね。
ああ、でも強制労働だと監視にコストがかかりすぎて割に合わないか。
ただでさえ足りないサイボーグ兵を10人も割けるわけがないし。」
先勝女幾ネ申:「この件はすぐ結論が出そうもないですね。
今すぐやらないと反乱が起きるというほど酷い不満が出ているわけでもないです。
先送りにして、ゆっくり刑罰のあり方を考えるということで良いですね。
まだ会期もたっぷり残っているし、今日はこれぐらいにしましょう。」
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