セラミック・ギャルズ | (2)ハギーとオリベ

ラストチャンス

ここは第7居住ドーム、入植者の娘ハギー18歳の部屋。

ハギー:「いいわね。明日起きたらこれを自力でやるのよ。」

オリベ:「ホントに世話になったね。出来るだけのことはしたんだ。これで思い残すこともない。」

ハギー:「そんな、死にに行くようなこと言わないで。」

オリベ:「気休めは良いよ。セーラームーンシニヨンが結えるくらいで受かるのなら誰も死なずに済むんだ。」

ハギー:「そんなこと無いわ。素体調査官はたいていシニヨンにこだわりがあるというじゃないの。」

オリベ:「噂に過ぎない。素体訓練でバレエが重視されているからって調査官がシニヨンフェチとは限らないよ。」

ハギー:「大丈夫よ。これならポイント高いわ。じゃあ、頑張ってね。」


学科検査

重苦しい空気に包まれた試験会場

【問題】ブラックホールや中性子星のような超高密度天体においても静止軌道は常に存在できるか。

オリベ:「・・・(う〜ん、義務教育としては標準レベルかな。
えーと要するに静止軌道が事象の地平面より内側にあったら無理なんだよな。
で、静止軌道の高さは自転が早ければ低くなるよな。
こういう天体は重力崩壊で縮んだときにものすごく自転が早くなっているはずだったな。
だけど同じ高度なら重力が強いほど公転が早くなるから大重力なら静止軌道も高くなるか。
ふむ、そうか。静止軌道より外の公転軌道では潮汐力でだんだん加速されていつか放り出されるんだったな。
だったら静止軌道が事象の地平面より内側だと何も吸い込まれなくなるぞ。
吸い込まれないならブラックホールが出来ない訳だから静止軌道が吸着円盤の外になかったらおかしいよな。
じゃあ、Yesだな。
ふう、どうやら学科では生き残れそうだ。)」


実地審査

審査スタジオ

素体調査官・美剣:「よし、横一列に並ぶんだ。
初めに言っておくが、この審査は既に報告されている義務教育課程行動観察結果に見落としがないか最終確認するためのものだ。
我々はお前たちを殺すために来たのではない。可能な限り多くの者を救済するために来ている。
つまり教育サイドから不適合との報告が上がっている者について一縷の望みがないか見直すのが役目だ。
とはいえ、過去に繰り返された非人実験の結果、男性の全身機械化が常に悲惨な結末になることが判明している。
帝國の技術では女性型の外観でなければ生命維持装置の機器配置に無理が生じる。
そして素体段階で性適合できていない者の脳を女性型ボディに直接搭載すれば精神に変調を来す。
必ず発狂し、脳をかきむしろうとしてもがき続けるようになるのだ。
だから性適合が出来ない者はどうしても改造手術を乗り切ることが出来ない。
そして残念ながらGID素質は努力によって備えうるものでもない。
3歳からバレエをやっていれば有利だとか言うのは都市伝説に過ぎない。
レオタードを着させたのは誤魔化しようがない体の反応を見やすくするためで、これはコンテストではないのだ。
上手い下手を見るのではない。とにかく無心で私の動きをまねるのだ。
運が良ければ救えるかも知れない。ただそれだけだ。」

オリベ:「結局フラグか・・・。」


不合格宣告

素体調査官事務所面接室

美剣:「オリベだな、よし、そこに座れ。」

オリベ:「(((;゜Д゜)))」

美剣:「お前は優秀だ。努力も尽くしたようだな。」

オリベ:「( OдO)?」

美剣:「時代が違えば良きシビリアンとして帝國の発展に寄与できただろう。惜しいが脳梁が細すぎた。」

オリベ:「o_ _)o 」

美剣:「申し訳ないが72時間以内にドームを退去してくれ。その間の行動は自由だ。
出来れば精一杯退去先を探して欲しいものだが、このご時世には難しいだろうな。
もしも行くあてが全くなく、早く楽になりたいなら、72時間後にここへ来い。私が介錯して進ぜよう。
悪あがきをして我々の目が届かぬ場所に潜むのも良かろう。我々は72時間が過ぎるまで一切詮索しない。
なんなら武器を密造し、どこかに罠を張って我々に挑んでもよい。
その場合、私は堂々と受けて立ち、勝ってお前の首を取らなければならない。
金星非常事態特別条例により2名の素体調査官が斃されたら来年まで狩りは中断される。
その間はお前を匿った者も一切罪に問われることがない。さあ、行け。」

オリベ:「。゜(゚´Д`゚)゜。ウワァァァン」


差し入れ

ハギーの部屋

ハギー:「オリベ!?」

オリベ:「もうだめぽ。逃げ隠れしたってすぐに捕まって殺される。」

ハギー:「これを使うのよ。」

オリベ:「これは一体?。」

ハギー:「素体養成所の工作実習施設で密造したバズーカ砲よ。」

オリベ:「鉄の使用は許可制じゃなかったっけ?。」

ハギー:「砲身も弾体もセラミック製よ。砲身2門と弾が4発、これで調査官を殺るしかないわ。」

オリベ:「素体養成所に入っている君を反逆者にするわけにはいかない。砲だけありがたく貰っていくよ。」

ハギー:「調査官を斃せば不問だわ。絶対に助けるからね。」

オリベ:「勝っても1年の命なんだ。これ以上迷惑はかけられない。」

ハギー:「来年も再来年も、条例が変わるまで勝ち続ければいいのよ。」


狩人

素体調査官事務所武器庫

美剣:「浮遊プラットフォーム就労2名、火星大工場就労4名、助かったのはたったこれだけか。」

美盾:「そして自決が6名。したがって3名を狩り出せば仕事はお終いね。」

美剣:「そう。残念だけど負けてあげるわけには行かないわ。私にもやりたいことがあるから。」

美盾:「その目的のために私情を殺す研修とはいえ、当局も残酷なことをさせるものだわ。」

美剣:「宇宙に金星よりも残酷な環境なんてそうそうあるものなのかしら。」

美盾:「この犠牲が無駄でないことを信じるしかないわ。」

美剣:「あいつら、何処に隠れたかな。武器は手に入れただろうか。」

美盾:「無抵抗の者を殺すのは気が重いから何か手に入っていると良いわね。」

美剣:「大怪我させられるような物があっても困るけどね。」

美盾:「一応飛び道具も想定して規定の防具を着けていくからまさかだわ。
あちらは鉄が手に入らないから骨のある奴でも精々竹槍か投石機でしょ。」

美剣:「3人の実家の仕事とか交友関係からすると1箇所に固まっては居ないわね。」

美盾:「うん。まず学校の倉庫辺りから探しましょ。あとは天井裏とかかな。」


さよならオリベ

農場地下倉庫

ハギー:「よし、穀物袋のバリケードでもこれだけ積めば銃弾なら止められるわ。」

オリベ:「アイビームを乱射されたら此処じゃあ火が出て一巻の終わりだよ。」

ハギー:「酸素が足りない金星で調査官が故意に火を付けるとは考えられないわ。」

オリベ:「そういえば、去年も一昨年も殆どが斬殺か撲殺だって噂だったっけ。」

ハギー:「いいわね、なるべく胴体を狙って撃ち抜くのよ。
運良く生命維持装置を2系統とも破壊できれば即死させられるわ。
さもなければ脚を破壊すれば動きが止められるし、いずれ電源が切れるわ。
動けなければ時間をかけて鈍器で殺すことも出来るでしょう。
頭は比較的防御が厚いし避けられやすいから下を狙った方が確実だわ。
初弾を躱されたらおそらく2発目を装填する時間は無いでしょうね。」

オリベ:「こんな簡易照準器で正確に狙うのは無理かもね。」

ハギー:「しっ、誰か来たわ。」


美剣:「ん?、こんなところで素体タグ反応?、・・・ハギー、あ、もしや。」

美盾:「ターゲットの交友関係ね。匿うつもりかも。一応気を付けようよ。」

美剣:「学力で1年落ちた娘か、そのときターゲットに助けられたようだわ。」

美盾:「それなら必死で匿う動機は十分ね。武器も持っていそうよ。」

美剣:「2:1より2:2の方が公平で気が楽になるわね。」

美盾:「間違って素体の方を殺さないように気を付けなくちゃ。」

美剣:「最初は刀で手足を狙うわ。扉、開けるわよ。」


オリベ:「来るな、来るな・・・くっ照準を・・・」

美剣:「穀物の積み上げ方が変だわ、居るわよ。」

美盾:「左、あそこじゃない?」

ハギー:「訓練通り、ど真ん中・・・合った、点火っ!」

オリベ:「ここだ、点火っ!」

美剣:「うわあっ。」 美盾:「きゃあっ」

オリベ:「やったのか?、煙がすごくて何も見えないよ。」

ハギー:「気を付けて。まず、次発装填をしてから確かめるのよ。」

美盾:「そうはさせないわ。えいっ。」

ハギー:「ぎゃっ、う、腕が。」

オリベ;「あわわ、くそお。」

美剣:「小手ぇっ!。」

オリベ:「ぎゃああぁぁぁ。どうして、当たったのに。」

美剣:「そうね。残念だったわね。このボディにセラミック弾は通じないの。」

ハギー:「しまった。恒星間航行用のメタル胴!。なんで考えなかったのかしら。」

美剣:「首、いただくわね。御免っ!。」

ハギー:「オリベーぇ・・・」

美盾:「ごめんね。貴女はよく大事な人を守ったわ。限られた材料で良い武器造ったわね。
立派よ。ただ、私たちの防御が狡かっただけ。さあ、おとなしく降伏してちょうだい。」

ハギー:「もう処罰は覚悟しています。」

美剣:「貴女が罰せられることはないわ。これからは、その腕前を生き残った人たちのために使うのよ。
貴女の武器を応用すれば、鉄が無くても金星から出られるロケットが造れるようになるわ。」


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